大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(行ウ)106号 判決

原告 ハキイム アブダラ ルカニカ

被告 法務大臣

主文

一  被告が平成三年四月一〇日に原告に対してした在留期間更新の不許可処分の取消しを求める訴えを却下する。

二  被告が平成三年八月一五日に原告に対してした在留期間更新の不許可処分の取消しを求める請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が平成三年四月一〇日に原告に対してした在留期間更新の不許可処分を取り消す。

2  被告が平成三年八月一五日に原告に対してした在留期間更新の不許可処分を取り消す。

二  被告の答弁

1  本案前の申立て

主文一項と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

第二事案の概要

一  本件処分の経緯等

1  原告は、ウガンダ共和国の国籍を有する外国人であり、昭和五九年八月三一日、東京入国管理局成田支局入国審査官から平成元年法律第七九号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下、右改正前の同法を「旧入管法」といい、右改正後の同法を「入管法」という。)四条一項四号に該当する者(観光等の目的をもって、短期間本邦に滞在しようとする者)としての在留資格及び在留期間九〇日の上陸許可の証印を受けて、本邦に上陸した(以上の事実のうち、原告がウガンダ共和国の国籍を有する外国人で昭和五九年八月三一日に本邦に上陸したことについては当事者間に争いがなく、その余の事実は甲二号証及び同四号証により認められる。)。

2  被告は、原告からの昭和五九年九月二〇日の難民認定の申請に対し、同年一二月二七日、難民の認定をしないとの処分をした。原告は、右の処分を不服として、東京地方裁判所に右難民不認定処分の取消しを求める訴えを提起したが、平成元年七月五日、請求棄却の判決が言い渡され、右判決は、平成二年一〇月一六日に最高裁判所において原告の上告が棄却されたことにより、確定した。(以上の事実については当事者間に争いがない。)

3  右難民認定申請中の昭和五九年一一月二六日に原告が在留資格変更の申請を行ったので、被告は、昭和六〇年二月二二日、在留資格を旧入管法四条一項一六号、平成二年法務省令第一五号による改正前の出入国管理及び難民認定法施行規則(以下、右改正前の同規則を「旧入管法施行規則」といい、右改正後の同規則を「入管法施行規則」という。)二条一項三号に該当する者(法務大臣が特に在留を認める者)とし、在留期間を一年とする変更を許可した。その後、被告は、原告からの在留期間更新の申請に対し、昭和六〇年一二月二日、昭和六一年一二月一日、昭和六二年一一月二七日、昭和六三年一一月二八日及び平成元年一一月二九日、それぞれ在留期間を一年として在留期間の更新を許可した。(以上の事実のうち、原告の在留資格の点及び原告が平成元年一一月二九日に在留期間を一年とする在留期間の更新の許可を受けている点については当事者間に争いがなく、その余の事実は甲二号証ないし同五号証により認められる。)。なお、その後、原告の右の在留資格は、平成二年六月一日施行の前記法律第七九号附則二項により、「定住者(入管法別表第二)」とみなされることとなっている。

4  原告は、平成二年一一月二八日、在留期間更新の申請をしたが、被告は、平成三年四月一〇日、更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして右申請を許可しない処分(以下「本件第一処分」という。)をした(この事実については当事者間に争いがない。)。

原告は、前記第一の一の原告の請求の趣旨の1項において、右の本件第一処分を不服として、その取消しを求めている。

5  その後、原告は、平成三年四月二四日、在留資格変更の申請及び在留期間更新の申請をしたので、被告は、同日、原告の在留資格を入管法別表第一の三の「短期滞在」とし、在留期間を九〇日(在留期限は同年二月二七日まで)とする在留資格の変更を許可するとともに、更に原告からの在留期間更新の申請に対し、在留期間を九〇日(在留期限は同年五月二八日まで)とする期間更新の許可をした。次いで、原告は、平成三年五月二三日、被告に対し、本件訴訟が係属中であることを理由として在留期間更新の申請をしたが、被告は、同年八月一五日、更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして右申請を許可しない処分(以下「本件第二処分」という。)をした(以上の事実については当事者間に争いがない。)。

原告は、前記第一の一の原告の請求の趣旨の2項において、右の本件第二処分を不服として、その取消しを求めている。

二  本件の争点

1  本案前の争点(本件第一処分の取消しを求める訴えの適否)

(一) 被告は、まず、原告の前記の「定住者」としての在留資格は、前記平成三年四月二四日の在留資格変更の許可により既に「短期滞在」に変更されてしまっており、現時点で本件第一処分を取り消してみても、もはや右の「定住者」の在留資格での在留期間更新の許可が行われる余地はなくなっているから、本件第一処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものであると主張している。

(二) これに対し、原告は、右の「短期滞在」への在留資格変更の申請は、被告からその申請手続を取らないときは退去強制手続や処罰の対象となるとの警告がされたため、不法在留となることを避けるためやむを得ず行ったものであるから、右の在留資格の変更によって本件第一処分の取消しを求める訴えの利益がなくなるものではないと主張している。

2  本案の争点(本件第一処分及び本件第二処分の適否)

(一) 原告は、原告の所持している旅券は既に失効しているが、日本国内にウガンダ共和国の政府機関がないため有効な旅券の取得が不可能であること、ウガンダ共和国に帰国することに身の危険を感じていること、本邦に在留できないと原告と同時に日本に入国し日本人と婚姻している弟とも離別せざるを得なくなること等の理由から、本件各処分がいずれも被告が有する裁量権の範囲を逸脱してされた違法なものであると主張し、更に、本件第二処分については、これによって原告の本件第一処分の取消しを求める訴訟の追行が妨げられることになることからも、違法なものであると主張している。

(二) これに対し、被告は、被告が本件第一処分をしたのは、前記のとおり原告の難民不認定処分の取消しを求める請求を棄却する判決が確定した以上、更にその在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由がないものと判断したためであり、また、被告が本件第二処分をしたのは、原告に対する前記「短期滞在」の在留資格の付与及び九〇日の在留期間の許可は出国準備のためにされたものであって、そのような者に訴訟遂行のために更に在留期間の更新を許可することは濫訴の弊を招くおそれがあること等から認められないと判断したためであるから、本件各処分につき裁量権の逸脱あるいはその濫用があったものとは認められないと主張している。また、原告は本件訴訟について訴訟代理人を選任しているから、本件第二処分が行われたことによってその訴訟追行が実質的に不可能になるものでもないとしている。

第三争点に対する判断

一  本案前の争点(本件第一処分の取消しを求める訴えの適否)について

1  前記の事実関係からして、原告からの平成三年四月二四日の在留資格変更の申請に対し、その在留資格を平成二年一一月三〇日から入管法別表第一の三の「短期滞在」とする在留資格の変更の許可がされたことによって、原告の現在の在留資格が右の「短期滞在」となっていることは明らかである。

2  ところで、入管法及び同法施行規則は、外国人に対して在留を許可するに当たっては、常に一個の在留資格及び一個の在留期間を定め、我が国に在留する間は、常時単一の在留資格及び在留期間をもって在留するものとする仕組みを採っているものと考えられる(入管法二条の二、同法施行規則三条及び同規則別表第二等)。そうすると、右のとおり原告の在留資格が原告の申請によって平成二年一一月三〇日から「短期滞在」に変更されている以上、現時点で本件第一処分が取り消されたとしても、原告に対してそれ以前の在留資格である「定住者」としての資格で在留期間の更新が行われる余地はなくなっているものといわなければならない。

3  したがって、右「定住者」の在留資格での在留期間の更新を求めるために本件第一処分の処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠く不適法な訴えとして、却下を免れないこととなる。

二  本案の争点(本件第二処分の適否)について

1  入管法二一条三項に基づく外国人の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるか否かの判断は、事柄の性質上、被告の広範な裁量に任されているものと解すべきであるから、被告のした右の点に関する判断が違法とされるのは、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠き、又はその事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであると認められるため、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとされる場合に限られるものというべきである。

2  ところで、本件第二処分については、前記のような事実経過及び乙一号証ないし同三号証によれば、被告は、原告からの難民不認定処分取消請求を棄却するとの判決が確定した以上更に原告の「定住者」としての在留期間の更新を認める必要はないとして、専ら出国準備のための「短期滞在」の在留資格を付与し、その在留期間の更新の申請を許可してきたところ、右のような地位にある原告に対して本件第一処分の取消しを求める訴訟の追行のために更に在留期間の更新の許可をすることは濫訴の弊を招くおそれがあること等から適当でないものと判断したことから、本件第二処分を行ったものであることが認められる。そうすると、原告の側に前記の原告の主張に係るような事情があるものとしても、この点に対する被告の判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠く等の違法なものとまで認められないことは明らかなものといわなければならない。

なお、原告は、右の処分によって、原告の本件第一処分の取消しを求める訴訟の訴訟追行権が実質的に奪われることになるとも主張するが、原告は右事件について訴訟代理人を選任してその訴訟の追行を委任しているのであるから、右の主張は失当なものというべきである。

3  したがって、本件第二処分に裁量権の逸脱又はその濫用による違法があったものとは認められないから、右処分の取消しを求める原告の請求は、失当として棄却を免れないこととなる。

(裁判官 涌井紀夫 小池裕 近田正晴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例